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My Romance [音楽]

マイルス・デイヴィスのバンドに加わったミュージシャン、という繋げ方で書いてきた「この1曲」シリーズですが、今回は「My Romance」。演奏はBill Evansと彼のトリオ、ということになりますが、「Consecration」というタイトルの2枚組アルバムの最後のナンバーとして収められたバージョンで。

そもそもこのアルバムはビル・エヴァンスの死後に発売されたアルバムです。日本で編集・選曲されたものであり、演奏の録音自体が行われていることを、エヴァンス本人は知ってはいなかったようです。なおかつこの録音は亡くなるほんの2週間余り前から、1週間ほど出演していたクラブでの演奏なのです。

そしてこのクラブでの演奏の次に出演したクラブでは、ふつかめ途中でついに演奏できなくなってしまい、自宅で看護されたのち入院するも、完全に手遅れの状態で、入院の翌日に世を去ってしまいます。自分自身の健康状態も分かっていたはずですが、治療を拒んで演奏を続けていた、「あれは時間をかけた自殺のようなものだ」と言う人もいました。

亡くなったのは1980年9月15日ですが、アルバムの音源となったキーストン・コーナーというクラブでの演奏が、8月31日から9月7日まで。のちになって、この演奏の全容がボックスとして発売されることになりますが、最初のまとまった形でのリリースは、このアルバムでのものでした。その最後の曲が「My Romance」なのです。

演奏そのものは、ドラム・ソロを挟みながらのかなり白熱したもので、ある意味ではビル・エヴァンスのイメージからは、少し離れている気もします。たとえば1961年のアルバム「Waltz for Debby」に収録されている「My Romance」は、もっとすっきりと歌心を重視しているような、3人での音を楽しみながら聴きあっているような演奏です。

CDではテイクがふたつ入っていたりもするのですが、どちらにしてもいわば冷静な、しかし内に秘めた情念と、3人でのプレイを慈しむような演奏です。ところがこちらの「Consecration」での「My Romance」は、むしろ少し荒れたと表現してしまうとちょっと言いすぎる気もしますが、ドラム・ソロで盛り上げられて、最後はひと暴れしたような終り方をしています。

そしてメンバーを紹介し「ありがとう、いい時間を過ごせた、ありがとう」という本人のアナウンスが最後に収録されているのです。音楽とそれを取り巻く物語を過度に期待してしまってはいけないと思いつつも、やはりこの時の演奏には、なにか死期を覚悟しているかのような、気魄がこもっていると思ってしまいたくなります。20年ほどを経てのふたつの「My Romance」を聴くと、その違いに驚いてしまうのです。そして、そのどちらもがビル・エヴァンスなのだと思うのです。
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